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ロミオとジュリエット 36

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                      主人公東郷の邸宅



結のアパルトパンで過ごした後、私は招待された『ロミオとジュリエット』を観るためオペラ座に行くことになった。
私は、初めて実際のバレエ公演を観る。ましてや結がロミオ役だ。

今、私の新しい腕時計が午後3時を指している。 秘書の小崎に頼んでおいた、100箱のチョコレートがオペラ座の楽屋に届く頃だ。
出演者と楽屋のスタッフ全員に贈るため、パリオペラ座近くのチョコレートを注文してもらった。
結のお気に入りのチョコレート店である。
100箱の大量注文で、いったんは店に断られたが”バレエダンサーの道ノ瀬結”に贈ると言ったら了承してくれた。
大量のチョコレートに気付いた結が、私に電話して来た。

「たくさんのチョコにびっくりしたよ。どうもありがとう、東郷さん。でも、本当にごめん、お名前を伏せていただいて…。」

結のパートナーである私が贈り主であることは伏せてもらった。
”結ファンの日本人より”としてもらった。
結は、形だけでも、シングルに戻らないといけないのだ…。

「贈り主が、私だとすぐわかったか?」

「だって、箱詰めチョコの内1個がサッカーボールの形なんだもん。www」

「名前を伏せる代わりに、そうさせてもらったよ。」

「みんな喜んでいるよ。ありがとう。開演前に必ず楽屋に寄ってね。受付に言っておくから。」

パリ市内の駐車場に車を入れ、オペラ座に歩いて向かった。
入口に、『ロミオとジュリエット』の大きな幕が張られている。
私が受付で身分証明書を提示する前に、ブラオミュンヘンの監督だと分かったらしい。
そう、ここは、パリ。
地元のサッカーチーム、ラパリスの地元だ。
その宿敵、ブラオミュンヘンの監督の顔くらい知っていても不思議ではない。
入館証を、首から下げられた。警備員に誘導されて楽屋に行く。
舞台の両脇にドアがあり、そこから入ると、出演者たちが薄暗い舞台裏に大勢いた。
警備員が、中にいたもう一人の警備員に私の来訪を告げる。

すぐに、バレエの白い衣装を着てメイクした若者が私の前に現れた。
背格好が、結に似ている。

「東郷さん!」

「結?本当に結?」

「ロミオです。」声が結だ。
アイラインを2重に描いていて、別人に見え、本当に結と話しているのか不思議な感じがする。

純白の衣装の結は、まるで妖精だ。




「結、綺麗だよ。ため息が出そうだ。」

「東郷さんに褒めてもらえてうれしい、ふふ…。」妖精が笑っている。

「沢山のチョコレート、ありがとう!みんな喜んでいるよ。」

結の声に、しーっと私が唇に指をあてた。
誰が贈ったかは、秘密のはずだ。
でも、近くには、”チョコレート”の単語が聞こえてしまい、「メルシー(ありがとう)」と言った人たちが何人かいた。

「結、これを見たら、私はドイツに帰るから。またな。今日は招待してくれてありがとう。楽しむよ。」

結が、私の手を握って来た。
しかし、結の左手の薬指にリングは、はまっていなかった。

オペラ座の、赤いビロードの椅子に着席する。
天井絵は、シャガールだ。
建物の装飾建築が豪華ですべてが芸術品の劇場だ。



椅子から、かすかにゲランか何かの香水のかおりがした。
長い歴史の中で、この椅子でたくさんの人がバレエやオペラにいそしみ、時が過ぎていったのだ。
ほどなくして開演を知らせるベルが場内に鳴り響き、舞台の重たい緞帳(どんちょう)が上がった。

『ロミオとジュリエット』
1600年前後に書かれたシェークスピアの名作だ。

舞台は、14世紀イタリアのヴェローナの街。
中央の像の傍らで佇む、憂いに満ちた若者。結が演じるロミオだ。
それに気づいた客席から大きな拍手が起きた。私も合わせて拍手した。
ストーリーは、モンタギュー家の一人息子ロミオが、キャピュレット家の一人娘ジュリエットと恋に落ちるところから始まる。

第2幕では、石造りの重厚なバルコニーで、「ああ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの?」の有名なシーンあった。
初めての恋に、歓びをあらわすロミオとジュリエット。
結のロミオは、高くのびやかに飛び、結は実際の身長より大きく見える。
妖精のような結のロミオは、ヒロインのジュリエットに、負けないくらい愛らしい。
”美しすぎるロミオ”と言われるゆえんだ。

そして、ふたりの家は、長年敵対関係にある。
その家の許しも得ず、密かに結婚してしまうふたり。
しかしその直後、ロミオは親友と外出中、街中で争いに巻き込まれる。
親友・マキューシオを殺されたことに逆上したロミオは、キャピュレット夫人の甥を刺殺してしまう。
追われる身となったロミオ。
つかの間の逢瀬の後、悲しみにうちひしがれるジュリエットに、父が命じたのは貴族のパリスとの結婚だった。
ロミオとの愛を貫くため、ジュリエットは命を賭しての行動に出る…。

偽の毒をあおり、死んだかに見えるジュリエット。
それを見つけ、悲しみのあまり自ら命を絶ってしまうロミオ…。
結のロミオが、舞台の床に倒れていく…。

結の演じるロミオを見ながら、私は自分を重ねている。
結が、これを見に来るように強く言ったのは、自分が出るからばかりではない。
今の、”私たちの姿そのもの”だからなのだ。
私たちも、何があっても純粋に愛を貫こうとしているのだと。


しかし、敵対関係の家柄である、ロミオとジュリエットには悲劇が待ち受けている。

命がけの恋なんて、自分には一生縁がないと思っていた。
私は、帰りの車の中で考えていた。
いつもは軽快なベンツの走りが、心なしか重たい気がする。

サッカーが私の人生の中心にあり、恋愛はしてもたくさんある引き出しのひとつくらいでしかなかった。 しかし、私は結に出逢い、彼を愛し、結のためにサッカー監督を辞めようとさえした。
辞めようとはしたが、周囲とファンの好意でこうして監督を続けられている。

今まで、私と結の恋の障害になっていたのは、週刊誌と結のスポンサー企業だ。
しかし、障害の相手が政府となるとどうか。
今まで以上に、手ごわいのは間違いない。
サッカーの試合で、ドイツ首相やフランスの大統領が客としてやって来ることがある。
でも、別段私たちは政治利用はされてはいない。

しかし、日本となるとまた別だ。 私は、日本のスポーツ界のパーティなどに招かれて、日本の政治家に出くわすことがある。
世界で活躍する日本人スポーツ選手が集められる中に、私も入れられる。
日本の政治家たちは、その人気を利用しようとする。
著名なスポーツ選手は、政治の一部なのだ。私が、日本で、スポーツ関連の表彰を受けた時のパーティでのことだ。
政治家秘書に撮らせる写真に、私が政治家と一緒に納まったことがある。
Twitterに挙げられた写真を見たら、正面で写っているのは政治家の方で、私は後ろ姿だった。
どうせ、この写真を都合よくまたどこかで使うつもりなのであろう。

あの連中は、使える者は何でも使う。使って使い捨てる。
そして、盾突こうものなら、徹底的に排除するのだ。
芸能界ならスキャンダルや薬物、スポーツ界ならドーピング、暴力疑惑だ。
あらかじめ、スキャンダルの種を握っておいて、すぐには出さない。
政治家が隠したい重要なニュースがある時、ここぞとばかりに流す。 芸能人やスポーツ界のスキャンダルで、国民の目を逸らせるのは常套手段だ。
それに手を貸しているのが、週刊Bezのようなマスコミだ。

私は、LGBTを公表しているし、ヌード写真集まで出して、スキャンダルには事欠かないように映るのだろう。

  奴らにしてみたら、結は若く清純で、そのクリーンな生き方は利用価値がある。
”私との事”も、マスコミが取り上げなければ、人の噂も七十五日、そのうち忘れる。そんな噂があった、くらいにしか記憶されない。
清純で可愛い、人気は絶大の結でカムフラージュして、皆が気が付かないうちに、支持されない政策を意のままに動かす。

私と結が、互いの地位と名誉を捨ててまで守ろうとした、恋は振出しに戻ってしまった。
付き合いを続けていれば、私たちはそのうち、権力に抹殺されるかもしれない。

結と私は、バレエとサッカーで人気を得て、多くのファンを持つ。
当然、私たちを利用して金や権力に変えようとする悪い輩があまたいる。

週刊Bezの諸橋がそうであるように、要は金になれば何でもいい連中だ。

私たちの恋は、どうなって行くのか。

大恋愛が、幸せな結末とは限らない。
ロミオとジュリエットのように。
結は、それでも私を愛してくれるというのか。

大丈夫だと言ったが、舞台の上の結は、負傷した左足が少しふらつくのが見て取れた。
私に見せるため、無理に踊ったのか。

愛おしい、結…!

ベンツのフロントガラスから見える視界が、次第ににじんでいく。

私は、心のどこかで、結との別れを覚悟した。



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